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2018.05.14 Monday

ベイスターズ、涙の球団史 「2011年のナイン」 第1弾!

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    JUGEMテーマ:スポーツ

     

     村瀬秀信氏著「4522敗の記憶、ホエールズ・ベイスターズ涙の球団史」のスピンオフ「2011年のナイン」をシェア! 

     

    序章"嫌がらせのドラフト"と呼ばれて

     

    村瀬 秀信

    2013年に発売されベイスターズファンのみならずすべてのプロ野球ファンの胸を打った野球ノンフィクションの金字塔『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』。プロ野球史上最も敗戦を重ねたベイスターズが、泥沼の中から熱く立ち上がるまでを描いたこの作品のスピンオフ連載が待望のスタート。「2011年のナイン」それは暗黒時代、史上最弱と呼ばれ、身売り、本拠地移転、球団解散などが噂されたあの秋。どん底の中に生み落とされた高校生たちの7年間の物語

     

    風前の灯

    2018年のプロ野球が間もなく開幕する。(記事は2018年3月17日時点)
     
    今年のセ・リーグ。下馬評が高いのは前年のペナントを圧倒的な力で制した広島東洋カープ。そして19年ぶりに日本シリーズに進出した横浜DeNAベイスターズの評判も上々である。

     

    ラミレス監督は「勝利は我らの中にある」と言い、若い選手たちが躍動するチームを開幕前から多くのメディアが特集する。装いも新たになった横浜スタジアムはチケットを売り出せば完売。横浜の町はユニフォームを着る人たちの姿だけでなく、あちらこちらでベイスターズのかけらを見つけられるようになった。

     

    圧倒的な最下位を独走し、多くの人にそっぽを向かれていた数年前を思い起こせば、この盛り上がりは奇跡みたいなもんだと思っている。「優勝を狙える」と本気で言われるチームになったこと、街に人々にここまで愛されるチームになったこと。「継承と革新」を打ち出し、改革の旗手としてタクトを揮ったDeNAの功績は計り知れないものではあるが、そこには様々な人たちの変えなければいけない”という思いがあったことを忘れてはならない。

     

    “The Darkest Hour Is Just Before The Dawn”

     

    暗闇は夜明け前が一番暗い、なんて言葉をよく耳にする。

    横浜ベイスターズでいえば2011年がそれに該当するのだろう。

    あの当時、横浜ベイスターズは先の見えない真っ暗な闇の中にいた。

    暗闇の中でも最も深くて暗い暗い闇の底の底。そんな時に彼らはプロ野球選手としての生を受けた。

     

    2011年10月27日。

    東京・グランドプリンスホテル新高輪。同所で行われるプロ野球ドラフト会議に参加していた横浜ベイスターズは、円卓に加地隆雄球団社長、佐藤貞二常務取締役、堀井恒雄編成部専任部長ら球団首脳が列席。その円卓を囲むメンバーの中には、本来居るべきはずの尾花睛佐篤弔了僂聾えなかった。

    翻ること5日前の東京ドーム。

     

    シーズン最終戦を戦っていたベイスターズは9回表まで期待の若手右腕・国吉佑樹の好投で2対1とリード。しかし、最終回に守護神・山口俊が電光石火でノーアウト満塁のピンチを作ると、長野久義に代打逆転サヨナラ満塁本塁打を浴びてしまう。

    シーズン86敗目。首位から27.5ゲーム差となるぶっちぎりの最下位確定となるこれ以上ない劇的な幕切れ。

     

    試合後、佐藤貞二常務は「監督・一軍コーチは休養です」と発表する。指揮官である尾花監督は選手を前に「全責任は私にある」と毅然と話し、3年契約の最終年を残したまま、処刑待ちともいえる蟄居閉門を甘んじて受け入れた。横浜ベイスターズ。その命運は風前の灯火だった。

     

    日本一となった栄光の98年は遠い過去。21世紀に入ってから11年間で8度の最下位。特に08年からは3年連続90敗、4年連続勝率3割台という屈辱的な敗戦に塗れてしまうと、負けを続けるチームからは次々とスター選手が去り、球場には閑古鳥が鳴いた。

     

    毎年20億円とも言われる赤字を抱えていたベイスターズの親会社であるTBSホールディングスは、数年前から球団売却の相手を探っていると度々報じられていた。前年の2010年秋には実際に住宅設備大手の住生活グループとの球団売却交渉がまとまり掛けるも直前で破談。今日に到るまで決裂の原因こそ明らかにされていないが、横浜から静岡・新潟などへ本拠地移転を画策していた住生活グループと、それを認めないベイスターズ側の折り合いがつかなかったのが最大の理由と言われている。

     

    結局、翌2011年もTBSが球団を保有しながら再び球団売却先を探すことになった。明らかに参ったぞこりゃという顔をしながら「オーナー企業として引き続き力を尽くします」と言ってくれたTBS社長に感謝しつつはじまった2011年シーズン。「アナライジングベースボール(分析野球)」を打ち出すも踊らないチームに業を煮やした2年目の尾花監督は「オープン戦も全部勝ちに行く」と高らかに宣言するも全力の最下位に終わり、シーズン予想は解説者113人中101人が最下位を予想。なにくそと奮起することもなく、そのシーズンも何事もなかったかのように最下位に沈みっぱなしで終えた。

     

    秋の声を聞く頃、球団売却騒動は再び熱を帯びることとなる。神奈川では知られた家電量販店の「ノジマ」。さらには「京浜急行電鉄」「ミツウロコ」などの地元関連企業が集まった「横浜連合」なんて団体の名が新親会社の候補として浮かんでは消えていった。このドラフトを迎える時点で最有力候補となっていたのが、携帯ゲーム「Mobage(モバゲー)」を運営する株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)である。もはや球団売却の正式合意も間近として報じられており、スポーツ紙上では携帯電話がデザインされたモバゲーベイスターズのユニフォームを合成で着せられた2年目の筒香嘉智が掲載されていた。

     

     

    今日から、新しい未来を作り出す

    当時のDeNAは、「怪盗ロワイヤル」をはじめとしたソーシャルゲームで急成長を遂げたIT企業という認識の一方、社会問題にもなった課金ガチャ問題や、前年には公正取引委員会から独占禁止法違反容疑の立ち入り検査を受けるなどあやしいベンチャー企業”という認識を持つ人も多く、球団を持つことに対しても「売名行為」「規模的に経営は無理」「すぐに手放す」など、当時のメディアや評論家などからはネガティブに捉えられることも少なくなかった。

     

    このドラフトにおいても「身売りが確実で明日どうなるかもわからないベイスターズでは、指名しても入団拒否があるのではないか」という懸念が囁かれるのは致し方のないこと。だが、現場はそんなことはびた一文も考えていなかったという。

    2011年のドラフト会議の目玉は東海大・菅野智之投手、東洋大・藤岡貴裕投手、明治大・野村祐輔投手の3人が大学BIG3”である。何が何でも即戦力投手。それが左腕なら尚嬉しいというお家事情が永遠と続いていたベイスターズは、大学ナンバーワン左腕の藤岡投手を指名することを数日前に明言。ドラフト当日の最終会議でも藤岡指名”が確認され、抽選は加地社長が引く事で決まった。

     

    ベイスターズという球団の先行きに、ドラフトを担当する編成・スカウトの誰もが不安を感じていないといえば嘘になった。球団上層部で行われている売却交渉がどうなっているのか現場には情報は降りてこない。とはいえ、スカウト活動の最中、不安を表に出すことは絶対にできない。指名候補の選手を訪問する度「大丈夫。身売りしてベイスターズではなくなる可能性はあっても、チームがなくなることは絶対にない! 安心して来てほしい」と約束をしてきた以上、誰よりも自分たちが未来を信じなければならなかった。

     

    “今日から、新しい未来を作り出すんだ”

     

    ドラフト会議前、球団社長の加地はそんな願いにも似た言葉で自らを奮い立たせた。

    午後14時過ぎ。会議がはじまる。ドラフトの目玉でもある藤岡投手には、千葉ロッテ、東北楽天、横浜の三球団が重複。会場に詰めかけたベイスターズファンの声援を浴びながら加地隆雄球団社長がくじを引いたが、開いてみるときれいな白紙。交渉権は千葉ロッテが獲得した。

     

    会見で藤岡投手がうれし涙を流している頃、ベイスターズがハズレ1位に指名したのが英明高校の長身サウスポー松本竜也投手。しかし、2度目の抽選も菅野智之を日ハムの強行指名で奪われた巨人と指名が重複して敗北。ベイスターズは12球団最後のドラフト1位指名として、唐津商業の高校生右腕北方悠誠投手を指名。その後、12球団最多の9名を指名したこのドラフト。読み上げられた選手の名前は、7位の松井飛雄馬と育成を除いた全てが18歳の高校生のものだった。

     

    【2011年度ドラフト会議 横浜ベイスターズ指名選手一覧】

    1位  北方悠誠 投手 唐津商業高
    2  眈觸喊諭(畆蝓ゞ綵9餾歛膤愽嫗姐
    3  渡邊雄貴 内野手 関西高
    4  桑原将志 内野手 福知山成美高
    5  乙坂智 外野手 横浜高
    6  佐村トラヴィス幹久 投手 浦添商業高
    7  松井飛雄馬 内野手 三菱重工広島
    8  古村徹 投手 茅ヶ崎西浜高
    9  伊藤拓郎 投手 帝京高

    育成1位 冨田康祐 投手 香川オリーブガイナーズ
    育成2位 西森将司 捕手 香川オリーブガイナーズ

     

     

    高校生は若くて未来がある

    会議を終えた加地球団社長は指名の意図を満足そうに語る。

    「即戦力の藤岡投手は是が非でも獲りたい逸材だったが、抽選を外して方針を修正することにした。指名した選手は高校生が多いかもしれないが、今のベイスターズは未来に向けて何かを主張しなければならない。高校生は若くて未来がある。地元の選手もいるしね。彼らはその第一歩。球団の未来だよ」

    加地隆雄社長(写真:野球太郎)

    これまでのドラフトを見れば、前年に大学・社会人だけを指名していたチームの編成上、この年に高校生に偏った指名をしても不思議はない。だが、前代未聞の大最下位街道を驀進し続けるチームである。ドラフト前に「喉から手が出るほど投手が欲しい」「左腕が欲しい」と言っていた言動と相反するこの結果。同じ高校生偏重指名でも“育成する時間の余裕がある”チーム力を持つ、この年優勝した中日とソフトバンクとはわけが違っていた。

    この日、ドラフト会議を取材していた野球記者が、ニヤニヤと笑いながら筆者にこんなことを言ってきたことを強烈に覚えている。

     

    「ベイスターズはしばらく勝つつもりがないようだ。おそらく7年先を見て指名したんだろうね」

    悔しさに唇を噛みしめた一方で、至極ごもっともな意見だと思えた。

     

     

    村瀬秀信(むらせ・ひでのぶ)

     1975年神奈川県生まれ。全国を放浪後02年にフリーライターに。エンタテイメントとプロ野球をテーマに各媒体へ寄稿するほか、文春オンラインでは「文春野球コラムペナントレース」を主催。主な著書に『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』(双葉文庫)、『プロ野球 最期の言葉』(イーストプレス)、『気がつけばチェーン店ばかりでメシを食べている』(講談社文庫)など。 

     

     

     

     

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